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漫画とアニメとゲームがごちゃまぜになっている、ヲタ日記です。 腐発言もありますが、R18な内容でない限り、ワンクッションを置いたりはしていませんので、ご注意ください。
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今週の本誌の展開に衝撃を受けすぎて、朝一でぼろ泣きして、お昼休みに手帳に一気書き。
そんなお話です。

続きを読むからどうぞです。







■ 咲桜 ■


すっかり冷めていた茶から、淡い香りが立ち上っていた。

「…………?」

たった今、茶を口に含もうとしていた人物―――六番隊隊長の朽木白哉は、ふと手を止め、美しい白磁の茶器の中をじぃと見つめた。
少し吐いた息がゆるりと揺らした水面、その下方で数片の薄花がくるりと回っている。

「―――ルキア」

反射的に口を出た名が、次の間に控えていたその人を呼ぶ。
すると、音もなく開いた襖の向こう、畳の上に座した白哉の義妹―――朽木ルキアが、何事でしょうかと、少し仰々しく頭を下げた。
ルキアのそういった態度は、何か自分に対し―――良い意味で―――隠し事か思案をしているときのもので。
しかし、いつもならば片鱗くらい掴めるところ、今日のそれは全く見当がつかない。
仕方なく、「これは?」と尋ねるしか術を持たず、白哉はそのまま問うてみた。
 
「いつもの茶と、違っているようだが」
「はい」
「これは、桜――…か?」
「その通りです。さすが兄様」
「……うむ」
 
まぁ、茶の中に沈んでいるのが桜の花びらだと言うことは、大抵のものにも分かるだろう。
綺麗な形はそのまま保たれていたし、何よりこの香りが。
 
「良い香りでございましょう?九番隊の隊舎内で、つい数日前に咲いたものを、飴湯でゆっくり煮たものなのだそうです。あまりに色が美しかったものですから、そのまま白湯にて溶きゆるめてお持ちしました」
「ふむ。……待て。今……九番隊、と?」
「はい」
「…………」
 
九番隊、というルキアの言葉に、白哉はしばし黙した。
そして自然、頭に浮かんだ幼子のことを愛おしみ、唇の端に微かに笑みを刻む。
そしてその瞬間である。
一切の疑問が、白哉の中で―――氷解した。
「そうか……」とルキアにも聞こえぬ程の声で呟いて、淡く色づいた液体を一口すする。
義兄が今の状況を理解したことを、ルキアも察したらしい。
すす、と膝を進めたルキアは、白哉が相対している文机に小振りの瓶をコトリと置いた。
硝子一面が、淡いピンクで埋め尽くされているそれを見、白哉が苦笑する。
 
「大変であったろうに……」
「そうですね。糖度の高い飴湯を焦がさないようにするのと、花びらの形を綺麗に保つには、随分、手間をかけねばなりませんでしょう……」
「……このようなことをせず、直接私のところへ押しかけてきても構わなかったものを」
「それは……やはり、檜佐木副隊長は、お小さくなられても檜佐木副隊長であると言うことなのでしょう。本当に、慎ましい方でございますから」
「うむ……」
「それに、六車隊長が……兄様の現状をいささかご存じだったようでして。執行中の仕事が一段落するまで待つようにと、檜佐木殿に言い聞かせたようなのです」
「む、何故、六車隊長がそれを……?」
「おそらくその……一週間程前、兄様のところに五番隊の平子隊長がいらっしゃった故かと」
「あぁ……それならば得心がいく」
 
陽気で――白哉からしてみれば――よく喋る平子真子は、九番隊隊長と同じく元仮面の軍勢。
その心安さからか、暇さえあれば彼の幼き九番隊副隊長の元を訪れているらしい。
ならば、その口から今の己の状況は九番隊隊長にも伝わることだろう。
まるで、瀞霊廷通信の〆切が、三ヶ月分一気にやってきたようなこの忙しさは、丁度、平子がこの部屋を訪れた日から始まったのだ。
今は大半が姿を消した未決の書類は、その時、この部屋を埋め尽くさんばかりに積み上がっていた。確か、それについて平子から質問を受け、応答した記憶もある。
残念ながら、我が隊の副隊長は紙上の雑事がほとほと苦手であるのだ―――と。
そのせいで、本来既事となっているはずの隊の予算、決算にかかわる監査を、六番隊は期日通りに受けることが出来ず、この多忙が幕を開けたのである。
そして今も、作業自体は継続中であるのだが……。
 
「………ルキア」
「はっ」
「我が邸の桜は―――」
「そろそろ、七分咲きといった頃合いでしょうか。満開の桜はもちろん美しいものですが、この位の頃の夜桜というのも、また風情のあるものかと」
「ふむ……このような雑事に煩わされ、一間に閉じこもっている間にも季節は進んでいたか」
「はい。その……出過ぎたことを申すようですが、その……」
「良い。分かっている」
 
ギリギリまで睡眠時間を切り詰め、机に向かっていたこの一週間。
身体の調子を損ねているつもりはなかったが、義妹をはじめ、周囲の者達には心配をかけていたに違いない。
 
「それに――危うく約束を違えるところであった」
 
まだ、桜の蕾が固く閉ざされていた季節に、この部屋で交わした約束。
白い雪が、ふわりと地面を覆っていた日、自分の膝の上で、幼子が嬉しそうに笑って言った言葉。
 
「白哉おにいちゃんのお庭の桜が咲いたら、みんなで一緒にお花見しようね!」
 
つと立ち上がり、庭に向かう障子を静かに開ける。
雪の代わりに、若草が地面を覆った広い庭。
その中央にある大きな桜の古木。
ルキアの言葉通り、七分咲きの枝――その下で花を見上げている小さな影。
 
「修兵……」
 
静かにその名を呼ぶと、影はくるりとこちらを向いた。
そして、「白哉おにいちゃん!」―――と。
 
七分咲きの桜を霞ませる程の笑顔。
一足早く満開になったそれが、白夜の腕の中で咲き誇るまで、あとほんの少し。
 
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